令和7年3月4日に開会した与謝野町議会において、山添町長が述べた「令和7年度施政方針」をお知らせします。
令和7年度施政方針を述べる山添町長
1 はじめに
平成17年3月23日、17名の立会人のもと、小西英雄加悦町長・糸井弘志岩滝町長・太田貴美野田川町長の3名により合併協定書が調印されました。新たな町の発足に向けた準備期間を経て、平成18年3月1日に与謝野町が誕生いたしました。与謝野町長職務執行者・糸井弘志氏は開町式の式辞において、住民の皆さまに対して2つのお願いをされました。それは、町民の融和と与謝野町に生まれた子どもたちがまちを誇りとし愛着を持ち続けるようなまちづくりへの協力でした。
この言葉は、多岐に及ぶ調整事項があったことによるものだけでなく、住民・職員の皆さんの旧町への深い愛着を新町全体に広げていくことの難しさを感じ取られていたからこそでした。この考えは、糸井氏だけでなく初代・太田貴美町長や町議会議員・職員・住民の皆さんに広く共有され、全町にわたる一体感の醸成こそがまちの発展の礎になるとの認識のもとに、本町は歴史を歩みはじめました。
来年3月1日には、与謝野町誕生から20年の節目の日を迎えます。合併20周年記念式典を迎えるまでの1年を通して、住民の皆さんとともに歴史のはじまりをあらためて共有するとともに、これまでの歩みを振り返り、まちの現在を直視した上で、未来を展望してまいりたいと考えております。
また、私自身も節目の年を迎えます。
先の選挙において、私は先人たちから受け継ぎ進めてきたまちづくりを基盤としながら、ポストコロナ社会を切りひらいていくために、安心安全・活力向上・住民参画を理念にすえ、7つの基本政策及び36の施策を公約といたしました。令和4年与謝野町議会6月定例会における所信表明では、山添町政3期目で大きく歩みを進めていきたい最重点政策分野として、新型コロナウイルス感染症対策・子ども子育て環境の充実・地域医療体制の充実を位置付けました。
令和7年度は今任期の最終年度にあたることから、あの桜舞う春に住民の皆さんにお約束した公約の実現を通して、与謝野町の可能性と希望を大きく育むという使命を胸に刻みながら、新町発足時に広く共有された「一体感の醸成こそがまちの発展につながる」との認識を大切にして、全身全霊をかけ職責にあたることを、あらためてお誓い申し上げます。
2 変化する地域社会
本町は人口減少が進む基礎自治体の一つです。合併時に2万6千人弱であった人口は年々減少し、現在では2万人弱となっています。18歳を境に進学や就職のために転居する方々が多いこと、出生数が減少していることが主な要因となっています。以前から申し上げているように、この静かなる有事は地域社会に大きな影響を与えており、有効求人倍率が2倍を超える深刻な人手不足、空き家や廃屋の増加、地域コミュニティが大切にはぐくんできた郷土芸能の継承が困難になるなどの状況をつくりだしています。
もう一つの構造的な課題である高齢化社会の進行にも真正面から向き合わなければなりません。人口に65歳以上の高齢者が占める割合である高齢化率は39%に到達しており、今後もこの割合は高くなる見込みです。老々介護や認知症の急増、望まない孤立や孤独等の状態が生まれやすくなることを想定し、適切に対応していかなれけばなりません。
また、人口減少や少子高齢化等の社会構造の変化のみならず、国際情勢に起因する経済環境の悪化により、電力やガソリン等のライフライン料金が高騰し、現在ではコメ類の歴史的な値上がりをはじめ、全体的に物価が上昇している状況となっています。この世界の政治経済情勢の変化は、ここ与謝野町で暮らす私たちの生活にも大きな影響を及ぼすことを教えていますし、インターネット環境の進化によって世界は小さくなっていることを示しているかのようです。
以上のような刻一刻と変化する社会情勢の中でも、住民・事業者の皆さんにおいては、自らの人生を切りひらくために、地域の課題を解決するために、誰かの幸せを支えるために、積極果敢に挑戦を重ねておられます。令和6年度は住民の皆さんに寄り添い、人・環境・未来にやさしいまちづくりの実現をめざしてまいりました。その過程の中で、本年度は私自身も公務や政治活動を通して、全世代・全業種・全方位で、住民の皆さんに寄り添うことができるように努めてまいりました。その経験から、令和6年度は住民・事業者の皆さんによって、与謝野町誕生以降、最も多くの挑戦が生み出された年であったのではないかと思います。
めまぐるしく変化する国際・国内の社会情勢、困難な時代だからこそ挑戦を価値とする与謝野町民。その中で、与謝野町役場に求められるのは、徹底的に住民の皆さんに寄り添うこと、国・京都府・事業者・教育機関・NPOなどの多様な主体と連携を深めながら、対話と協働を強化することだと考えます。
3 与謝野町のめざす姿
私は令和6年度を含めたこれまでの町政の歩みを踏まえ、令和7年度を「住民の皆さんに寄り添うやさしいまちづくりを実現・強化する年」と位置づけ、各種政策の推進に務めてまいります。
そのために重要なことは、この施政方針に込めた想いをすべての職員と共有し、全庁体制で熱意と情熱をもち住民の皆さんに向き合うことです。その上で、第2次与謝野町総合計画の基本構想で示した、みんなの手でまちづくりを進めること、将来のために未来志向のまちづくりを進めること、みんなにとってみえるまちづくりを進めることだと認識しております。
与謝野町町民憲章を念頭に置いて策定した第2次与謝野町総合計画では、「人・自然・伝統 与謝野で織りなす新たな未来」を未来像に掲げております。これには、経糸と緯糸が交わり風合い豊かな丹後ちりめんが織りなされていくように、自然と伝統が交わりながら、まちの主人公である住民一人ひとりがまちの新たな未来をつくるという意味が込められています。
令和7年度は第2次与謝野町総合計画後期基本計画の3年目に当たる年となるとともに、令和8年度の策定をめざす第3次与謝野町総合計画の骨子案を示す年といたします。現計画の確実な実行・振り返り・現状把握を通した展望等の議論を行わなければなりません。約2千人の住民の皆さんのご参画のもとに策定した第2次与謝野町総合計画。ここに込めた想いと基本理念を踏まえて粘り強く政策を実行していくことを、与謝野町役場の変わらぬ行動原理であることを、あらためてお伝え申し上げます。
4 令和7年度について(7つの分野別方針)
(産業・仕事に寄り添うまちづくり)
本町は、住民・事業者の皆さんの自らの人生は自らの手で切りひらくという強い想いが基盤となり、会社を興し事業を発展させるために切磋琢磨する方々が全国各地と比較しても多いことが大きな特徴となっています。その地域経済の成り立ちや発展の経過を踏まえ、地域の持続的な発展や成長を実現するためには、中小企業者・小規模事業者の振興は欠かすことのできない重要な要素であることを認識し、理念や基本方針・基本的施策等をとりまとめた与謝野町中小企業振興基本条例を定めております。現在も産業政策を立案する上で重要な羅針盤としております。また、令和3年度に与謝野町地域経済分析会議にて取りまとめていただいた「地域経済分析会議報告書」は、地域経済の実態把握・地域内再投資拡大を含めた地域経済に寄与する政策提言などの項目で構成されており、本町の地域経済発展のための重要な基礎資料となっております。
この間、住民の皆さんの平均所得は確実に増加しているものの、地域内産業構造の変化・人口減少による人手不足の深刻化や長引く物価高騰等の影響を受けて、各企業や事業所の経営環境は厳しい状況が続くとの認識に立っております。一方で、小さいながらもきらりとひかる飲食店や小売店等の出店が増加しつつあるとともに、地域内外の法人による経営規模拡大や町内進出のご相談を受けるケースも増えております。これらの流れを確実に定着させるべく、これまで以上に産業・仕事に寄り添うまちづくりを進めてまいります。
令和7年度においても、中小企業振興基本条例や地域経済分析報告書を踏まえて、引き続き新たな挑戦が生まれる風土と環境づくりを強化いたします。まずは、プレミアム商品券を発行し、現在も続く物価高の影響を受ける事業者の事業経営や生活者たる住民の皆さんの日常生活を支えます。また、総務省の地域力創造アドバイザー制度を活用し、各事業者の新規商品開発・販路拡大・異分野進出等の支援を強化いたします。着任予定の株式会社やろまい代表取締役社長の秋元氏は愛知県岡崎市を拠点に活動され、数多くの地域企業の売り上げアップに大きく貢献されてこられました。各事業所の強味を見いだしながら確実に成果をあげていただけるものと確信しております。そのほかにも、既存の産業振興支援事業をニーズにあったものに発展させます。また、令和6年度は企業誘致戦略に基づきふるさと企業家支援事業を実施し、織物・農業・観光分野に特化した誘致活動を展開している最中です。令和7年度においても、地域企業とともに持続的な経済発展を実現できる企業の誘致に取り組んでまいります。
本町の地場産業の織物・農業を取り巻く環境は大きく変化しています。外貨を稼ぐ産業として地域産業を支えた織物業と農業は、最盛期と比較すると国際的な競争や担い手不足によって厳しい局面を迎えていることは事実です。
しかし、先人たちから受け継いできた独創的な織物技術と真摯な姿勢によって生み出されるテキスタイルは唯一無二であり、国内外で高い評価を受け続けています。本町の織物技能訓練センターでは、熟練の職人から織物の技術を学ぼうとする方々が増加しており、町内事業所からも担い手や後継者の育成にこれまで以上に力を入れるべきとの声を受けております。この織物技能訓練センターを拠点施設として強化し、本町の織物技術や担い手を守り育んでいくために力を尽くしてまいります。
私は本町の織物産業の持続的な発展のためには、染織の工程だけでなく、桑園・養蚕・製糸の工程を本町内につくりあげる必要があるという認識に立ち、与謝野町シルクプロジェクト協議会の皆さんとともに桑園整備や養蚕事業に取り組んでまいりました。一定の成果を残しつつも、様々な課題を克服することができずに事業継続が困難になっていました。
しかし、私は「本町の織物業の持続的な発展のために、桑園・養蚕・製糸の工程を町内につくりあげる」ことを諦めることができませんでした。この間、数多くの関連事業者の皆さんにお出会いし、シルク産業のことを学ぶとともに関係性の構築に努めてきたところです。その過程の中で、「世界一のシルクを与謝野からつくりあげていきたい」という強い意思と具体的な事業計画をもつ企業との出会いがあり、一昨年の夏から庁舎内チームを編成し、誘致交渉を進めてまいりました。昨年の秋には事業主体者によって桑園・養蚕工場の立地場所の選定が行われ、土地所有者及び地域の住民の皆さんとも事業推進に向けた合意が図られたところです。今後、事業主体者から事業計画内容の公表がなされる運びとなりますが、私たちといたしましては、町内関係者・京都府・政府等と連携を図りながら、事業推進・定着のための支援をしてまいります。
ただいま公表いたしました事業計画の誘致が成功したのは、300年を超える長い丹後ちりめん産業の歴史の中で、良いときも苦しいときも、夏の暑さや冬の寒さにも負けず、粘り強く機場に立ち、世界で最も美しい織物を織りなすために、たゆまぬ努力を重ねてこられた織物事業者の皆さんがおられたからです。これまでの歴史に感謝と敬意を表しつつ、このかけがえのない絹織物産業を新しいステージに乗せていくために、関係者の皆さんのご協力を賜りますよう、心からお願い申し上げます。
農業におきましても、農家の皆さんとともに100%天然素材で製造している京の豆っこ肥料を基軸とした自然循環農業に取り組んでまいりました。令和5年度からは農業政策と環境政策の一体的推進を図ることを目的に農林環境課を新設し、これまでの農業政策の質的向上とさらなる発展拡大をめざしてまいりました。今後は、環境保全型農業拡大戦略に基づき、大切に守り育んできた本町の農業に対して、より多くの方々の共感と支持を得られる独自農業の確立をめざします。そのために、肥料の機能向上に向けた試験と実用化、環境にやさしい取り組みを定めた認証制度の構築等の施策を進めてまいります。さらに、住民の皆さんと食と農の関係性や重要性を広く分かち合うために、農業者・食生活改善推進員・専門家の皆さんのお力添えをいただきながら、食育の推進を図るとともに食育推進計画を策定いたします。
(交流・移住定住に寄り添うまちづくり)
先月の上旬、海外在留邦人や都市部で暮らす子どもたちが与謝野町を訪れ、ちりめん街道にある古民家やかや山の家を拠点としながら、こんにゃくづくりや酒蔵見学、民間の保育園への留学等を通して、地域の方々や文化にふれる体験をされました。私も一部の行程に同行し、参加された親子と交流いたしましたが、当たり前と受け止めてきたまち並みやものづくりの工程に驚かれている様子がとても新鮮でした。そして、地域の住民の皆さんがまちのことや自らの営みを静かながらも自信をもって説明される姿に感銘を受けました。交流の様子を通して、私たちのまちには多くの方たちに愛される風土に根差した魅力がある。それは、古くから当たり前に続いている日常の中にこそあると、あらためて思いました。
孔子の言葉に「近きもの悦び(よろこび)、遠きもの来る(きたる)」という言葉があります。傍ら(かたわら)にいる人が喜べば、自然と遠くから人が寄ってくる、という意味です。この言葉の通り、地域の住民が地域の魅力を掘り下げ、地域で楽しむ。そして、それを友人たちと分かち合うことが、ひいては、与謝野町に人の流れをつくることにつながると考えております。
令和7年度においては、ちりめん街道が重要伝統的建造物群保存地区の選定を受けて20周年の節目の年を迎えます。秋には選定20周年記念行事を行い、これまでの歩みを振り返るとともに今後の20年を見据える機会といたします。また、昨年12月に策定しましたちりめん街道交流マスタープラン実施計画に基づき、地域おこし協力隊を複数名受け入れ、現在のまち並みを保存しながらも空きスペースの活用や体験コンテンツの創出を強化いたします。また、令和7年度は本町唯一の駅である与謝野駅が開設されてから100年の記念すべき年を迎えます。7月12日には与謝野駅100周年記念式典の開催を予定しており、これまでの歩みを振り返るとともに今後の100年を見据える機会としてまいります。また、地域の皆さんとの対話を重ねとりまとめた与謝野駅周辺まちづくり計画に基づき新たなにぎわいと交流を創出するために、与謝野駅整備事業を推進いたします。
いのち輝く未来社会のデザインをテーマに据えた大阪・関西万博の開幕まであと40日となりました。この万博を体感するために、世界各国から約3000万人が集まると予測されています。与謝野町といたしましても、現地でのPR活動を通して本町を含む丹後地域への誘客効果を高めてまいりたいと考えております。そのために、京都府や府内各自治体等と連携を図りながら、実施事業を作り上げてまいりました。よさのフラグシップアクションを確実に実行することによって、効果を最大化したいと考えます。
観光振興や交流促進は重要な政策分野ですが、二拠点居住を含む移住定住政策の推進はより一層重要だとも言えます。この間、移住・定住希望者に寄り添うために、ワンストップ窓口を設置し、空き家バンク事業による空き家紹介だけでなく、多領域にわたるご相談に迅速に対応できるように取り組んでまいりました。その努力もあり、令和6年度は本町の関連制度などを活用した移住定住者数が50名前後となる見込みで、過去最高数となりました。令和7年度は新たに特設サイトを立ち上げ情報発信力を強化するとともに、結婚新生活支援補助金制度を新設するなどの充実を図ってまいります。
(健康・福祉に寄り添うまちづくり)
つい先日、本町男山区に立地する京都府立看護学校の第42期生卒業式にお招きをいただきました。ご挨拶の機会もいただき、3年間の厳しい看護教育過程を終えられた24名の卒業生の門出をお祝いするとともに今後のご活躍に期待を寄せたところです。42期生が看護の道を歩みはじめたのは、まだ新型コロナウイルス感染症の流行期でありました。つまり、彼ら彼女たちが看護の道を志したのは、100年に一度の公衆衛生上の危機の真っただ中であったことを意味します。きっと、ご家族やご友人、近所のおじさんやおばさんが安心して暮らし続けてもらいたい、見知らぬ誰かの命と健康を守りたい、という強い気持ちで入学されたことでしょう。その覚悟をもち医療の現場で働くことを決意した卒業生のうち17名が隣接する京都府立医科大学付属北部医療センターに就職する予定だということです。とても心強く思います。
本町の医療・福祉提供体制は、京都府立医科大学付属北部医療センターと地域に根差した医院・クリニック等のかかりつけ医療機関、特別養護老人ホーム・小規模多機能型居宅介護施設・障がい者福祉施設・社会福祉協議会・作業所等の福祉関連事業所が連携することによって整えられております。人材不足等の大きな課題がある中、各事業所がそれぞれの役割を果たしつつ支え合う体制が整えられており、その総合力は府内随一だと言えます。
人生最期のときを住み慣れた我が家で迎えたい。そう願うのは当然のことです。その患者さんたちの想いに寄り添い、その人らしい最期を整えるために、医療・福祉事業所が連携を図りながら訪問診療や看護等の取り組みを進められた結果、町内における在宅看取り率が府内市町村で最も高い状態となっております。
住民の皆さんが健康に暮らし続けるためには、現在の医療・福祉の提供体制を基盤にしながらより細やかな連携を図ると同時に、ハード面でも充実を図らなければなりません。なかでも、北部地域における医療人材の育成と確保の観点からも重要な拠点である「京都府立看護学校」と「京都府立医科大学付属北部医療センター」の建て替えと機能の充実は一刻も早く実現しなければなりません。この間、丹後地域選出の京都府議会議員・商工団体・医師会・4人の首長とともに連携を図りながら強く要望活動を行ってまいりました。地域の想いが叶い、京都府立看護学校は隣接地域において新校舎と新宿舎の建て替えが決定し、令和9年4月の供用開始をめざして建設工事が進みはじめました。うれしいことに、1学年の定員を40名から60名に増やした上で、です。一方で、京都府立医科大学付属北部医療センターは社会人大学院が開設されるなど、着々と機能充実が図られていますが、病院の建て替えはまだ見通せない状況です。引き続き、関係者の皆さんと連携を図り、確固たる体制を整えることができるよう、全力を尽くしてまいります。
先月の中旬のことです。障がいのある仲間の皆さんにとっての生活や交流の拠点であり、生きがいをつくる場所でもある障がい者福祉施設「夢織りの郷」で、20歳を祝う会が開催されました。社会福祉法人よさのうみ福祉会が管理運営されている町内の関連施設に集う20歳の仲間が対象でした。2名のうち1名が参加され、ご家族や仲間の皆さんに囲まれ、ご本人も笑顔が絶えずとてもうれしそうで、朗らかで温かみのある成人式となりました。ご本人がご家族に向けて感謝の気持ちをお伝えになられ、その内容は「いつまでも家族で幸せに暮らそうね」というものでした。私はその願いに寄り添いたいと強く思います。
現在、与謝野町内で障がい者手帳をお持ちの方々は約1,700名です。令和6年度は京都府聾学校に通う聴覚障がいのある児童への通学支援制度を新設するなど、一人ひとりの障がい特性や生活環境にあわせ、できる限り一人ひとりに寄り添った支援を模索してまいりました。令和7年度においても、障がいのある仲間やご家族の皆さんの願いに真心で寄り添いながら、必要な施策を実行に移してまいります。
この姿勢は、障がいのある仲間の皆さんに対してだけではありません。地域社会において社会的マイノリティと位置づけられがちな皆さんが、真に自分らしくありのままに地域社会で暮らし続けることができるように、その気運の醸成と制度面での下支えを行います。具体的には、さらなる人権啓発の普及活動の促進や多様性を尊重し合う共生社会を推進するための条例制定をめざします。
(子ども・子育てに寄り添うまちづくり)
昨年4月、加悦奥区に子どもからお年寄りまで幅広い年齢層の皆さんが気軽に集い、自分らしく時間を過ごせる居場所として、特定非営利法人が運営する「satoyamaにこちゃん」が開設されました。赤ちゃんと保護者の居場所づくりや子ども食堂等の事業を通して、子どもや子育て家庭に寄り添っておられます。足を運ぶと、多様な年齢層の方々が思い思いに時間を過ごしておられたり、子どもたち同士が満足そうにお食事をしたり、スタッフの方々と楽しそうに遊んでいる様子を見受けました。地域とともに一体となった子育て環境の実践が広がっていることにうれしさを感じるとともに、すばらしい活動をより広げていけるよう、関係者の皆さんとともに努力をしなければならないと思い、身が引き締まります。
本町は「子育てするなら与謝野町」をスローガンに掲げながら、妊娠期から就学後の子育て期に至るまで、先ほどご紹介した特定非営利法人のような多様な主体と連携を図りながら、切れ目のないきめ細かな施策を推進してまいりました。こども家庭センターでは、妊娠期に伴う経済的な負担の軽減を図るための「出産準備支援金制度」、産後間もない時期でのうつの防止やリフレッシュを目的として産後ケア事業を推進し、大変高い評価を得るまでになりました。令和6年度には次代を担う子どもの健康保持・増進を図るために、子育て支援医療の対象を高校生相当年齢まで拡充いたしました。これらの取り組みを通して、子育てしやすいまちとしての認知も高まっているのではないかと考えております。
一方で、昨今では児童の発達に課題や特性が見受けられるケースが増加していることから、健康調査やソーシャルスキルトレーニングを適切に実施し、発達障がい等を早期に発見し支援体制を整える必要が高まっております。また、昨年夏の段階で、小・中学生で約50名の不登校児童生徒がおり、望まない孤独・孤立につながっているケースもあるのではないかと推察しております。そのために、専門知識をもつ医師による医学的視点に立ったアプローチや訪問看護を通した子ども・子育て家庭に対する孤独・孤立対策を積極的に進めてまいります。
また、長年の懸案事項である野田川地域の認定こども園の整備推進においては、一昨年の9月定例会において整備予定地を石川保育所及び周辺の用地を候補地とすることを表明いたしました。その後、保護者や地域住民の皆さんに対して数多くの説明会を行い、合意形成を図ってまいりました。今年に入り、地権者の皆さんのご理解とご協力をいただき、周辺用地の買収をさせていただくことができたことから、令和7年度中には新園舎の設計を整え、令和9年度中の完成をめざして施設整備事業を進めてまいります。
さらに、児童・生徒が放課後の時間を有効に活用できるよう、近年では放課後児童健全育成事業の充実を図ってまいりました。一方で、三河内学童保育所及び石川学童保育所については、以前から施設の老朽化や施設規模の課題がありました。そこで、両施設を適切な場所に新築し、定員増と保育環境の改善を図ります。
これらの事業の推進を通して、子ども子育て環境の充実を実現できるものと確信いたします。
(教育・スポーツ・文化活動に寄り添うまちづくり)
与謝野町教育大綱では、「世界中の国や地域で、自らの責務を果たすことができ、自信と思いやりにあふれ、創造的に未来を開拓する精神をもつ人間を育む」を教育理念に掲げております。この教育理念を実現するための基本目標として、学力・思考力・体力・受容性・社会性・コミュニケーション力・普遍性・家庭環境を設定しております。令和5年4月の改訂時のポイントは、次の2点です。
1点目は、コミュニケーション力です。多文化共生時代の現代において、コミュニケーション力をはぐくむことは学力の向上の側面からも重要となっているほか、学習指導要領にある「主体的で、対話的で、深い学び」の実現にも必要不可欠なものとなっています。本町におきましては、小・中学校において、兵庫県豊岡市に拠点を置く芸術文化観光専門職大学長の平田オリザ先生による演劇的手法によるコミュニケーション能力の向上をめざす学びを系統立てながら取り入れております。児童・生徒たちは、限られた時間の中で一つの演劇作品をつくることにより、相手の立場に立つことの大切さや限られた環境の中で他のメンバーと折り合いを付けること、やりきることの重要性を学んでいます。
2点目は、普遍性です。新型コロナウイルス感染症は教育現場に多くの困難をもたらした一方で、タブレット端末の活用やオンライン授業の導入等の大きな転換点にもなりました。オンラインでは経験し得ない社会体験活動・文化芸術活動・異文化交流等のリアルな体験の価値が再認識されており、デジタルとリアルの最適な組み合わせによる教育の重要性が高まりました。今後は、人工知能の飛躍的な進化が想定され、教育デジタルトランスフォーメーションが進む未来社会が到来いたします。今まで以上に、一人ひとりの主体性と人間ならではの創造性という普遍的な力が求められるものと考えます。本町の中学校でもご講演を行っていただいたこともある舞鶴市出身でウィーン在住のソプラノ歌手・田中彩子さんの舞台を鑑賞する機会に恵まれました。透明度が高く、天まで届きそうな美しい歌声に耳を傾けていると、一人の人間が生み出す美や創造性というのは、こんなにも人の心をひきつけ豊かにすることができるんだと静かな感動が胸に込み上げてきました。私たちはこの与謝野町教育大綱を踏まえ、学校教育と社会教育の更なる充実をめざします。
そのためには、児童・生徒を取り巻く環境の変化を観察し、適切な対応を心がけなければなりません。特に、昨今の異常気象とも言える夏季の暑さは、児童・生徒の体力や気力を奪っています。そこで、6月から9月までの期間中において、約2キロの徒歩通学を行っている児童・生徒を対象とし、バス下校の措置をとることといたします。また、各小学校のプール授業においても異常な高温のために実施が困難となるケースが続出していることなどの理由により、令和7年度を通して関係者間で調整を行い、令和8年度からクアハウス岩滝で全小学校のプール授業を実施することといたします。
長年にわたる懸案事項の一つでもあった学校給食センターの整備事業についても、この3月定例会において、令和7年度当初予算案で建設にかかる予算、会期中に追加議案として工事契約に係る議案を提出いたします。議員の皆さんのご判断によって、児童・生徒に対して、安心・安全でおいしい給食を食べてもらえる体制を整えていただきたいと切に願います。
(環境・暮らしに寄り添うまちづくり)
将来にわたり、子どもからお年寄りまでのすべての世代がいきいきと暮らし続けられるまちをつくるには、率先して社会基盤を整え、持続可能な社会環境を実現することが極めて大切です。
今一度、私たちが暮らすまちの全体を俯瞰してみたいと思います。大江山連峰・野田川・阿蘇海をはじめとする美しい自然環境の中、120種を超える野鳥が飛来し、天然の白鮭の遡上箇所としては最南端に位置すると言われています。天橋立の内海では春夏秋冬を通して魚介類の水揚げがされており、来月中旬にはまるまるとしたアサリの水揚げがはじまります。
住民の皆さんにアンケートを通して与謝野町の魅力をお伺いすると、必ず上位にランクインする一つが「美しい自然環境」です。私は眼下に広がる当たり前の風景は、住民の皆さんの活動によって守り育まれていることを知っています。山々に分け入り、森林を整える。農地を機能させるために水路を浚渫する。ゴミを分別する。食べ残しをしない。これら日常生活における当たり前の行為そのものが、この美しい自然環境を守ることにつながっています。
令和7年度においては、住民の皆さんとこの意識を広く共有しながら環境保全活動や地球温暖化防止対策を確実に進めていきたいと考えます。近年、本町内においても少しずつ増えてきた太陽光発電施設の建設は一定の開発規模にならない場合、地域住民の皆さんや行政機関も把握することが難しい状況です。事業者・地域住民・行政が対話を通して、同じ現状認識や課題に向き合うことが大切だと考えますので、開発と環境保全がしっかりと調和するために必要なことを定めた条例の制定をめざします。
令和6年度は地球温暖化防止対策が確実に進みました。家庭における対策を進めていくとの観点から、よさの住環境改善省エネ家電買替応援事業に取り組むとともに、薪ストーブ設置補助金や間伐材搬出に係る補助制度を新設いたしました。令和7年度においても、新設した各種制度の活用を促進してまいります。
あわせて、私は自然環境を守るということは、与謝野町を災害から守ることにもつながると考えております。ここ近年、本町は深刻な風水害等の災害を受けておりません。このようなときこそ、平時における防災減災対策の推進が重要です。あらためて、地域防災計画及び職員災害初動マニュアルを見直し、広く共有を図ります。また、災害時の備えとして各備蓄類や加圧給水車の配備を進めてまいります。
昨年12月9日は、本町の公共交通政策が高く評価された日となりました。国土交通省から中野大臣をはじめとする幹部の皆さんにご来町いただき、住民の皆さんによって組織されている加悦地域支え合い交通運営協議会や他の協力法人とともに進める「よさの乗合交通」の視察を行っていただきました。中野大臣からは多様な主体の連携によって事業が進められている点が、すばらしいとのご見解をいただくとともに、実際の運行を担っていただているドライバーの皆さんにも親しくお声がけをいただきました。大変大きな励みになりました。令和7年度においても、よさの乗合交通の運行を通して、住民の皆さんの移動を支えてまいりたいと考えております。
これまでよりももっと環境・暮らしに寄り添い、美しくて住みやすい安全なまちをつくっていくためには、これまで申し上げてきた分野以外にも、道路や河川、橋梁、上下水道施設などの社会基盤整備や消防力の強化が必要となります。国や京都府と十分に連携を図りながら、有利な財源を確保しつつ確実に事業を前に進めてまいります。
(対話による協働のまちづくり・行財政運営の構築)
ただいまは、第2次与謝野町総合計画に掲げる7つの分野別方針に沿いながら、令和6年度の進捗を確認するとともに令和7年度の方針を申し上げてまいりました。私たちはこれまでから住民・事業者の皆さんとの対話を基にまちづくりを推進してまいりました。令和7年度は第3次与謝野町総合計画の策定に向けた一歩を踏み出すことから、これまで以上に対話による協働のまちづくりの強化を図るために、地域デザイン会議(自分ごと化会議)を通して積極果敢な議論を展開してまいる所存ですので、住民の皆さんのまちづくりへの積極的なご参画をお願い申し上げます。
ここでまちづくりの大きな流れと行財政運営に係る基本的認識を整理しておきたいと思います。本日、お伝えいたしました方針の中で、大型投資が必要な2つの事業、すなわち、学校給食センターと野田川地域の認定こども園の見通しにふれました。これらの施設整備事業は令和7年度から令和9年度までの期間で完了する予定です。今後、大型の投資が必要と見込む主な事業は小・中学校の施設整備事業と総合庁舎建設事業となります。このうち、教育委員会の所管事業である学校施設整備事業は、まずは教育的な視点で議論がなされるべきだと考えております。
一方で、総合庁舎建設事業については、私が町長に就任したときから町政の重要課題の一つとして位置付けてまいりました。この間、加悦中学校改築工事・2つの認定こども園の新設工事・クリーンセンター整備事業等の大型施設整備事業が終了し、残る2つの大型施設整備事業の見通しが立ちました。そして、令和7年度から第3次与謝野町総合計画の策定に向けた議論が本格化することから、総合庁舎建設に向けた議論を進めるタイミングに入ったと考えます。その方針はこれまでから申し上げているように、新たな庁舎をまちの中心地に建設するというものです。もう一歩踏み込んで申し上げるならば、まちの地理的中心地である野田川地域での整備を軸に議論を進めるべきだと考えております。もちろん、厳しい行財政環境にあることは十分に理解しておりますし、合意形成に時間がかかることも想像できます。しかし、合併後20年が経過する中、住民の皆さんとは「与謝野町はひとつのまち」という認識を十分に分かち合えていると確信しています。その上で、第3次与謝野町総合計画の策定に向けた議論を本格化させるタイミングであれば、新庁舎建設に向けた議論とあわせて、まちの未来をより具体的に描くことができるものと考えています。以上のことから、令和7年度を総合庁舎建設に向けた議論を開始する年に位置づけます。
そして、最後に本町の行財政環境についてです。本町の財政状況は一般会計の歳入予算の約70%を地方交付税や国庫支出金等の依存財源に頼る財政構造となっており、依然として厳しい状況が続いています。しかしながら、4つの財政指標において国の基準値を超えるような状態にはなく、第3次与謝野町行政改革大綱に基づき方針を順守しながら的確に個別対応を行うことで、今後も財政の健全性を確保できるもの考えます。住民の皆さんにご心配をかけている会計に占める借金の割合を示す実質公債費比率についても、その高止まりの要因となっていた平成18年から23年までにかけて実施した下水道整備に係る起債の償還も令和5年度にピークを迎えました。今後、整備を予定している大型の公共施設整備を行ったとしても、令和6年度決算から減少に転じていく見込みとなっております。依然厳しい行財政環境が続くことにはなりますが、コントロール可能な状態ですので、ご安心いただければ幸いです。
5 むすび
令和7年度におきましては、令和6年度の歩みを踏まえ、住民の皆さんに寄り添うやさしいまちづくりの実現・強化をめざします。そのために、私は、議員の皆さん、住民の皆さん、職員の皆さんを信じ、全身全霊で職責に当たります。令和7年度の与謝野町をつくりあげていくために、皆さんのお力をお貸しいただきますよう、心からお願いを申し上げ、令和7年度施政方針といたします。
ご清聴いただき、ありがとうございました。