令和5年3月2日に開会した与謝野町議会において、山添町長が述べた「令和5年度施政方針」をお知らせします。
令和6年度施政方針を述べる山添町長
1 はじめに
令和2年の春、与謝野町内で新型コロナウイルス感染症の罹患者を立て続けに確認いたしました。未知の新感染症の出現により、不確定要素の高い情報が錯綜し、住民の皆さんにおいても強い不安を感じ取られ、町内が混乱していた状況であったことを昨日の出来事のように覚えています。
この3年間、住民の皆さんにおいては、「百年に一度の公衆衛生上の危機」と言われる状況に対し、他者を思いやる気持ちを大切に、例え感染症に罹患したとしても、安心して地域社会で療養できる状況を作り上げていただきました。また、医療従事者をはじめとするエッセンシェルワーカーの皆さんにおいては、地域社会が安定的に運営されるよう、自身の健康が害される危険性を承知のうえ、ご貢献いただいてまいりました。私は、住民・医療従事者をはじめとするエッセンシェルワーカーの皆さんの勇気ある対応に、鼓舞されてきたひとりです。
このような状況の中、岸田総理は本年1月23日に開会した通常国会の施政方針演説で、新型コロナウイルス感染症について、現在の感染症法上の「新型インフルエンザ等感染症」から5類感染症とする方針を示されました。1月27日には、5類への引き下げを5月8日とすること等が取りまとめれたところです。
私はこの判断は、住民・事業者の皆さんの長期間にわたるご協力とご貢献がなくては成り立ちえないものだったと強く考えております。令和5年度は、歴史上においても、新型コロナウイルス感染症を乗り越え、国民がポストコロナ社会を創った年と振りかえられるのではないかと思います。
これまでの間、住民・事業者の皆さんが重ねてこられた献身的なご貢献と、コロナ禍で思い通りに営業ができなかった経営者たち、仕事を失ってしまったと嘆いておられた若いお父さん・お母さん、ふれあいサロンなどの集まりに行くことができず生きがいをつくれなかったおじいちゃん・おばあちゃん、大学生になってもキャンパスに通うことなく友達をつくることができなかった町出身の若者たち、わいわいがやがやしながらお昼ごはんを食べることができなかった児童生徒たち、仕事に追われ家族と十分な時間を過ごすことができなかった職員たち、苦労を重ねたすべての皆さんの想いを胸に刻み込み、私は来年度を住民の皆さんとともにポストコロナ社会を創る年と位置づけ、「ともに創る与謝野」の実現をめざす決意です。
2 変化する社会
新型コロナウイルス感染症は、地域社会に感染の不安や事業の売り上げ低下による経済的な心労、外出自粛による行動制限がもたらすストレスなど、強い負の影響を与えました。加えて、昨年のロシアによるウクライナ侵攻を起因とする経済情勢の悪化により、国内においても電気やガス料金の価格高騰を引き起こしています。しかしながら、地域社会に目を向けると、このような逆境下においても、住民・事業者の皆さんによって未来をみすえたチャレンジや創意工夫が重ねられています。
3 与謝野町のめざす姿
私は、来年度を住民の皆さんとともにポストコロナ社会を創る年と位置付けました。変化しつつある地域社会の現状を的確に捉え、本町の可能性と希望を育んでいくために重要なことは、第2次総合計画の基本構想で示した、みんなの手でまちづくりを進めること、将来世代のためにも未来志向のまちづくりを進めること、みんなにとってみえるまちづくりを進めることだと認識しています。
令和3年度及び令和4年度において、住民の皆さんにもご参画いただき第2次総合計画後期基本計画を策定するための議論を進めてまいりました。ここ近年の社会経済情勢などの変化をふまえて、私たちのまちが進むべき道筋や講じていくべき政策などを明らかにすることができたと考えております。
合併後、「水・緑・空 笑顔かがやくふれあいのまち」をスローガンに、私たちは、美しい水と緑、澄んだ空に代表される自然との調和を大切にしながら、一人ひとりの笑顔がかがやく、ふれあい豊かなまちをめざしてきました。この想いを尊重しつつ、第2次総合計画では「人・自然・伝統 与謝野で織りなす新たな未来」を未来像として掲げています。これには、経糸と緯糸が交わり風合い豊かな丹後ちりめんが織りなされていくように、自然と伝統が交わりながら、まちの主人公である住民一人ひとりが本町の新たな未来を創るという意味が込められています。
来年度は第2次総合計画後期基本計画の初年度に当たる年であることから、あらためて、総合計画で掲げた基本理念や政策を粘り強く実行していくことを、与謝野町役場の基本的な行動原理であることを表明いたします。
令和5年度について(7つの分野別方針)
一人ひとりが個性を活かし安心して働けるまち
令和4年12月、第6期与謝野町産業振興会議の皆さんよって熱心にご議論いただいた改正案をもとに、与謝野町中小企業振興基本条例の一部を改正しました。新型コロナウイルス感染症の渦中にありながらも、「挑戦」「みらい」「つなぐ」等の前向きな言葉の数々と固い決意によって、まちの未来を力強く展望する条例改正につながりました。
平成27年度から開始したホップ栽培は、年々生産量が増加し、令和4年度は約1tと、クラフトビールブルワリーに対して販売できる産地として大きく成長してきました。この夏ごろには民間事業者によるビール醸造所が稼働する予定であることから、ホップをはじめとする町産農産物を生かした6次産業化が活性化いたします。また、桜を地域資源として着目した町内の法人の取り組みが実を結び、昨年末には食用としての「桜の葉」の初出荷をされる等、新たな挑戦が、まさに花咲こうとしている状況です。
織物業におきましては、かねてから和装以外の新分野への挑戦が続けられている中、京都府において産業創造リーディングゾーンのひとつとして、丹後地域を「世界から注目されるテキスタイル産地」に位置付け、新たな発想や感性で商品の開発を促進することとされています。人口千人あたりの織物事業所数が全国一である本町が率先してその役割を果たすことが求められており、長年にわたり織物技術を発展させてこられた熟練の織物職人の皆さん、新たな市場を開拓して来られた皆さん、ひらく織プロジェクトにご参加いただいていた若手の担い手の皆さん、全ての皆さんと力を合わせて名実ともに織物日本一と呼ばれる産地として発展してくよう、確実に生産基盤支援・販路開拓支援・人材育成支援を実行してまいります。
産業で未来を拓くためには、新たな挑戦が不可欠であると考えており、ただいまご紹介をさせていただいたような「挑戦」が生まれる風土や環境づくりを推進し、起業・創業、事業拡大、事業継承、新分野進出等に対して積極的に支援を行います。
地元を誇りに思い、人の流れを生むまち
新型コロナウイルス感染症の拡大は、人の流れに多大な影響をもたらしました。一方で、屋外空間の活用や、近隣地域内を旅するマイクロツーリズム、何度も訪れる第2のふるさとへの関心の高まりといった、コロナ前にはあまり光が当たっていなかった部分が注目されています。
孔子の言葉に「近きもの悦(よろこ)び、遠き者来(きた)る」というものがあります。傍(かたわ)らにいる人が喜べば、自然と遠くからも人が寄ってくる、という意味です。コロナ禍を経て、この言葉のとおり、地域の住民が地域の魅力を知り、地域で楽しむ、そしてそれを発信することが、ひいては与謝野町に人の流れをつくることにつながる、とあらためて強く思っています。
本町にはたくさんの魅力的な資源があります。包み込むように大きな星空・独特のさえずりを聴かせてくれる野鳥たち・春になると町中で鳴り響く笛の音・今もなお軽快なリズムを刻む機音・美しく広がる水田などの地域独自の自然や、地域のありのままの歴史・文化を感じ体験することは唯一無二の価値です。これらは私たちのまちの誇りであり宝であることから、これらの魅力を磨き育むことによって住民や関係団体の皆さんとともにこれからの観光を創っていきます。
とりわけ、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されているちりめん街道や阿蘇シーサイドパークを含む阿蘇ベイエリア、丹後天橋立国定公園内に位置する双峰公園等の滞在交流エリアにおきましては、民間事業者との協働により、賑わいや新たな魅力創出をより一層進めていきます。
加えて、東京一極集中から地方分散・ネットワーク型社会への転換が進んでおり、本町への移住者も令和3年度は12世帯34人(令和5年1月末現在9世帯22人)になるなど増加傾向にあります。これを好機と捉え、働きながら地方で生活する「ワーケーション」や移住者受け入れについても継続して取り組んでまいります。
みんなが自分らしく幸せに生きるまち
新型コロナウイルス感染症の拡大は、社会活動や経済活動への影響のみならず、自分自身、そして家族を含む身近な方々の健康に対して、今まで以上に見つめ直すきっかけとなりました。
この健康を支えてきたのが医療です。本町の医療体制は、京都府立医科大学附属北部医療センターと地域の医院、クリニックなどの「かかりつけ医療機関」との連携により医療提供体制が整えられており、地域で安心して暮らし続けるためには今後においても医療提供体制の確保・充実が極めて重要となります。令和5年度は、京都府において建替えを前提とした「北部医療センター基本構想策定費」が予算化される見込みであり、具体的な整備計画の策定に着手されることとなります。また、府立看護学校の建替えを前提とした京都府北部地域の看護師の確保、学校機能拡充を盛り込んだ整備検討も合わせて着手されることとなります。これらは本町の地域医療体制の充実・強化の実現に向けて大きな前進であり、本町におきましても立地自治体として整備計画の早期実施に向けて、より積極的に関与してまいります。
コロナ禍においては、障がい者・高齢者・女性・子ども・引きこもり者等、社会的に立場の弱い人たちに大きな影響を及ぼしたことを踏まえ、真に寄り添った支援が必要です。一人ひとりの人権が尊重され、地域社会で安心して暮らすとともに町政に参画することができる環境を整えることが重要です。来年度は関連条例の制定を見据えながら確実な一歩を踏み出します。
さらに、来年度は多様な福祉基盤の整備が進む予定です。合同会社による看護小規模多機能居宅介護施設の開設や加悦地域における障害者グループホームの開設、社会福祉法人による高齢者福祉施設の新築、医療法人による高齢者グループホームの開設、NPO法人による発達に課題のある子どもの通所施設の開設等が計画されており、全力で支援いたします。また、障がいのある方の就労に向けた応援やDV被害者への支援等、だれもが安心して暮らせるまちづくりをこれまで以上に進めていきます。
つながりで笑顔を未来につむぐまち
令和5年4月1日、国に「こども家庭庁」が設置され、子どもの施策を社会の真ん中に据える「こどもまんなか社会」をめざす取り組みが進められ、また、京都府では「子育て環境日本一」をめざす取り組みが進められています。
本町では、「子育てするなら与謝野町」のまちづくりを推進するために、かねてから妊娠期から子育て期までの切れ目のないきめ細やかな子育て施策に取り組んでいるところですが、より一貫した子育て施策を進めるために、現在、子育て応援課内に設置している「子育て世帯包括支援センター」と「こども家庭総合支援拠点」を統合した「こども家庭センター」の設置に向けて準備を進めます。
国は、令和4年度補正予算で新たに出産・子育て応援交付金を事業化されましたが、本町では、これに加えて昨年に創設した出産準備応援金制度を引き続き実施し、新たな命の誕生を応援します。
少子高齢化社会における子育てにつきましては、地域での子育て環境や風土を育むことが極めて重要です。令和2年度に開始した「キッズステーション事業」は、まさしく地域の力を基本として子どもの居場所を確保する取り組みであり、今後も継続するとともに、さらに他の地域への横展開が図れればと考えています。
魅力ある教育が活力ある人や地域を創るまち
与謝野町教育大綱では、「世界中の国や地域で、自らの責務を果たすことができ、自信と思いやりにあふれ、創造的に未来を開拓する精神をもつ人間を育む」を教育理念に掲げています。
人口減少、少子高齢化に加え、新型コロナウイルス感染症は、時代の大きな変化となりましたが、本町の教育理念は変わることなく大切にし、学校教育、社会教育ともにより充実する必要があります。
新学習指導要領では、主体的・対話的で深い学びの実現をめざしています。本町では、芸術家による演劇的手法を取り入れた協同学習や、質の高い文化芸術の鑑賞・体験をすることにより、子どもたちの豊かな創造力や思考力、コミュニケーション能力を養う取り組みを進めます。
全国的に導入が進んでいるコミュニティ・スクールは、学校が抱える課題の解決に、地域・関係機関が一体となった取り組みができることが期待されています。本町におきましては、加悦地域で加悦中学校スクールサポート協議会が発足しており、同協議会を中心に実施している地域学校協働活動を、コミュニティ・スクールと一体的に運営することで、より効果的な取り組みとなるよう、今後の他校への拡大をめざします。
本町の学校給食施設は、現在5小学校と3中学校に給食を提供している給食センターと、岩滝小学校が自校給食で運営を行っていますが、いずれも耐用年数を既に超過し老朽化が進んでおり、加えて平成21年に改正された学校給食法に基づく学校給食衛生管理基準にも適合しておらず、京都府内の給食センターを見ても基準に適合していないのは本町を含む2団体のみといった状況です。
これらの課題を解消して、食育環境も整えたうえで、子どもたちに安全で安心して食べられるおいしい給食を提供することが急務であることから、岩滝小学校の自校給食は廃止しセンター給食に移行するとともに、廃校となった岩屋小学校の校舎を解体し新たな給食センターを整備することとします。
美しくて住みやすい安心安全なまち
平成30年8月、私は、持続可能なエネルギーの推進・温室効果ガスの大幅削減・気候変動の影響に対する取り組みを推進し、持続可能な地域づくりをめざす「世界気候エネルギー首長誓約」に署名いたしました。以降、脱炭素社会の構築をめざす首長たちとともに科学的根拠に基づいた政策を実施するために、ともに努力を重ねている最中です。
平成31年3月には、森林環境税及び森林環境贈与税に関する法律が成立し、地球温暖化防止、国土の保全や水源の涵養等の森林が有する公益的な機能を維持・向上するため、国・都道府県・市町村が協力して森林整備を進める仕組みが構築されました。これらを踏まえ、令和4年度には、民間事業者がもつリモートセンシング技術を活用し、ドローンにより撮影した画像の解析により、森林の状態を効率よく把握し、森林整備に活かす試み、所謂、スマート林業事業を開始いたしました。来年度は、この事業を拡充させ、適切な森林管理をめざします。
本町では、環境にやさしい自然循環農業をはじめ、阿蘇海の環境づくり、ごみの再資源化や再利用等に努めてきました。自然環境保全、温室効果ガスの削減、再生可能エネルギーの活用、住民活動への支援など、官民一体となって脱炭素に向けた取り組みを一層強化することとし、農林環境課に設置します「地球温暖化対策室」をフル稼働させることとします。
交通分野におきましては、超高齢化社会に対応した移動手段の確保が喫緊の課題となっており、交通事業者と地域住民、行政が協働で取り組み、便利で持続可能な公共交通が求められていることから、与謝野町地域公共交通会議での議論を加速化させ、新たな公共交通の実現を図ります。
住民の皆さんが住みやすく、安心安全なまちとなるためには、道路や河川、橋梁、上下水道等の社会基盤の整備や消防力の維持も重要となります。これらは比較的大きな財源が必要となりますが、財源確保に努め計画的な投資を進めることにより、災害に強いまちづくりをめざします。
住民が主人公となるまち
冒頭で言及したように、「みんな」、「みらい」、「みえる」は、第2次与謝野町総合計画に掲げるまちづくりの基本理念です。「みんな」はみんなの手で進めるまちづくり、「みらい」は未来志向のまちづくり、「みえる」はまちの資源や動きがみえるまちづくり、です。
「ヒト・モノ・コト・カネ」といったまちづくりに必要な行政資源が縮減していく状況の中で、地域でも担い手不足や連帯感の希薄化等を背景に、地域づくり活動に課題が見られることから、行政を含む多様な主体が協働したまちづくり、「新たな公共」の組成が必要だと認識しています。その仕組みや方針を地域とともに作っていくことが重要です。自助、共助、商助、公助と住民参画のまちづくりを推進するため、住民の皆さんとの対話により地域協働の形を創るとともに、それらの積極的な活動を支援します。
行政においては、時代に適応した効率的・効果的な行政サービスの提供が求められています。急速に発展してきたデジタル技術は、地域住民の利便性の向上や行政サービスを向上させるための重要なツールとなり得ます。
令和5年度は、マイナンバーカードの普及に伴い電子申請サ―ビスをはじめ、コンビニ交付の実現、公式LINEアカウントの開設による情報発信やコミュニケーション機能を活かした対話を進めるとともに、専門的な知見を有した民間人材を活用した政策形成による、質の高い行政サービスの提供を推進します。
これらの政策を推進していくには、財政の健全化が図れていることが必須となります。令和5年の当初予算とともに見直しを行っております「財政計画」を堅持していくことはもちろんのこと、現在も継続的に進めていただいております「公共施設等マネジメント推進委員会」の動向も踏まえながら、中長期的な視点で持続可能なまちづくりをさらに進めます。
重点プロジェクト
第2次与謝野町総合計画後期基本計画では、7つの分野を横断し重点的に取り組むべき施策を「重点プロジェクト」と位置付け推進していくこととしています。
後期基本計画策定の過程において実施された「よさのみらい会議」やまちづくりアンケートなどから、総合計画審議会において分野を横断する共通課題・住民ニーズとして抽出したものであり、まさに住民参画で策定した計画のなかでも、重要なプロジェクトと考えています。
まちづくりの担い手が生まれたり、育まれたり、また実践者同士が繋がることの場づくりとなる「よさのみらい会議プロジェクト」、住民・事業者・行政が一体となり、このまちに住む人々の愛着や誇り、地域資源の魅力発信を強化するとともに、地域で取り組まれる多様な活動を応援する仕組みづくりを行う「まちの魅力発信・応援プロジェクト」、そしてこれまでから重点的に推進してきた「地方創生プロジェクト」の3つの重点プロジェクトにつきまして、積極的に推進してまいります。
5 むすび
以上のような政策を実行するのが政治であり、行政です。あの桜咲く春、私は住民の皆さんに自分が掲げる政策を訴え、理解を求めました。自身に対する投票を求めただけでなく、この美しいまちを次世代につないでいくために、全身全霊をかけて選挙を戦いました。選挙から1年の歳月が過ぎようとしている今、住民の皆さんから受け止めた想いや願いをかみしめて、責任ある政治・責任ある行政を実現していくために、力を尽くしてまいります。議員の皆さん、町民の皆さんのお力をお貸しください。
この令和5年度を、危機を乗り越え、新たな一歩を踏み出す年にしてまいりましょう。