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【よさのみらい大学講座レポート】伝統工芸の技と技術を生かし、次世代につなぐものづくりへ①

最終更新2023年04月01日(土) 10時00分
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伝統工芸の技と技術を生かし、次世代につなぐものづくりへ①
講師 中川木工芸 三代目 中川 周士 氏
日時 2019年2月2日(土)19:00~21:00
会場 知遊館
参加者 26名
ビジネス学部「中川木工芸」

ビジネス学部「中川木工芸」

講師は、中川木工芸3代目。祖父・父と京都市内の岡崎に、講師自身は2003年より滋賀県の琵琶湖のほとりに工房を構えています。

若い頃は、家業を継ぐことには反発心があり、執行猶予のような感じで4年間大学に行かせてもらったとのこと。講師にとっての大学生活は、ものづくりが好きなことを自覚する4年間でした。家業がものづくりだったことが、ラッキーだと思えるようになり、卒業後は木工の仕事に入りました。

平日は夕飯を食べて23時頃から仕事をし、月曜日から金曜日は木工。金曜日の夜にアトリエへ移動して、土日は鉄の彫刻作品をつくるという二重生活を10年間続けていました。木工の繊細な桶づくりと相反する鉄の大胆な彫刻作品制作。周囲からは、同姓同名の別人が居ると思われるほど二面性のあるものづくりでした。講師は、この二面性の感覚が20年経った今、活かされていると感じています。

【新しい木桶の挑戦】

桶は、昭和30年以降(高度成長期以降)使われなくなってきました。京都で250軒あった桶屋が3軒に衰退。(今、中川木工芸から独立で1軒増えて、4軒)60年ほどで50分の1以下になってしまったのが、桶屋の現状です。存続を心配した講師は、木桶を次の世代へ残していくために、新しい木桶の挑戦を始めます。

2008年に、木の葉型・楕円形の桶の開発に着手。

開発には、約2年の歳月がかかり、10作以上の試作を繰り返してようやく完成しました。共同開発していたプロデューサーの紹介により、完成したタイミングに京都に来ていたドンペリの最高醸造責任者に見てもらう機会を得ました。そして2010年から2012年のフランスのドンペリのシャンパン公式クーラーとして認定されることになりました。木の葉型の木桶は、1日に1個も完成しないので、2年間かけてドンペリから注文を受けた300個を納品することになりました。

これがひとつの転機となり、今までの仕事を0(ゼロ)から見直す機会になりました。

木桶の新しい挑戦

木桶の新しい挑戦

【職人がもつ暗黙値を形式化値にする】

木桶というものはアーチ構造で石橋のようなもの。中心に向かう角度と重量によって強固なものとなります。アーチ構造は、丸い形だと安定するのですが、楕円形だと非常に難しく、開発に時間を費やしました。

講師の祖父や父の代では、解析せずに仕事は体で覚えろと教え込まれてきました。昔は日常の家庭でも桶が使われるシーンも多く、作る量に比例して体で覚えることもできました。ところが今では、桶を作る量が昔に比べると10分の1に。単純計算すると、祖父が1年で体得したことを講師が得るには10年かかります。祖父が10年かけて得たことは、100年かかってしまう。これでは到底追いつきません。講師は、昔の構造計算や資料を解析して設計することを死に物狂いで体得しました。なぜ桶というものは、水が漏れないのか、カンナの一番切れるのはどういう角度か、頭で考えながら同時に体を動かして検証し、10倍の差があったところを3倍、2倍へと短縮できるようになりました。

講師の祖父の代から寸法帳というものがありました。桶をつくるための必要な数値が記されているものです。すごく機能的で素晴らしいものですが、新しい木桶においては複雑な形になってくるので、数字だけではおこせないものがたくさん出てきます。最初はカレンダーの裏に図面をひいていましたが、ペンの太さで誤差が出てしまいました。いろいろと模索して最終的にはパソコンで図面をおこすようになり、精度をあげるために0.02ptで描画するようになりました。タガを締め付ける時に角度を違えると崩壊してしまいます。タガがとまる一点の角度を求め、複数の円の中心点をむすぶ線をひきアーチ構造の図面をおこします。

職人の暗黙値を形式化値にする

職人の暗黙値を形式化値にする

【デザイナーとコラボレーションする余地】

新たな構造設計ができるようになり、デザイナーと一緒にコラボレーションができるようになりました。7百年、8百年続き、変えようがないといわれていた桶のスタイル。高さやサイズを変えることやタガの位置を変えることぐらいがデザイナーの関われるところでした。ところが、多角形の桶づくりが可能になると、デザイナーがデザインする余地が爆発的に大きくなりました。つまり、デザインの力によって、衰退してきた桶をもう一度再生しようというのが可能になったのです。

デンマークのデザイナーとコラボレーションすることによって、木桶スツールが生まれました。桶とは、基本的に水を汲む道具と捉えられていましたが、家具になることで今まで以上の付加価値をつけられるようになりました。

ロンドンやパリなどで披露されると、今の新しいデザインと工芸のコラボが世界にインパクトを与えました。また、外国人デザイナーの感覚で、「これだけ手間暇かかっているのだから見せないと!」という発想から継ぎ目を見せるデザインの桶も生まれました。

デザイナーとコラボすることで自分だけならやろうと思わない領域に手を伸ばすことができます。この挑戦をすることにより、時代を超える新しいものが生まれるそうです。

【テクノロジーとの融合、アートとの連動】

デザインだけでなく、テクノロジーと伝統工芸のコラボも可能になっています。

「次の100年の未来の豊かさとは何だろう?」を探る、パナソニックのテクノロジーと伝統工芸のコラボレーションがあります。

冷蔵庫で冷やすのも便利ですが、昔、井戸水や川の水で飲み物や果物を冷やして美味しく食べていた、そういう行為が人間の心に豊かさを与えるものだったのでは?という発想で、板の下に装置をしのばせ水流で冷やす仕組みや、IHからの非接触給電でお酒を冷やしたり温めたりできる桶などを開発しました。

講師はアーティストとのコラボレーションも手がけています。桶の筒にLEDランプを入れて天井に水の波紋を映し出したり、ガラスの茶室で炭を使わず保温力でお茶をたてる桶をつくっています。

【手作りの木桶が教えてくれるもの】

「手作りの桶は、構成している木の幅が不均一でも成り立つところが面白い」という講師。木桶は、尾州桧の良いものでも間伐材でも、トータルで円周になればよく、使用する枚数も決まっていないといいます。一方で、機械仕事は一つの動作を決定するための数値を与えなくてはいけないので、規格外ははじかれます。講師は、全て同じ状態で、全て同じものを求められるのが機械生産だと考えます。手で作ることによって、機械で作ればはじかれるものも、修正することができるので無駄を出さないという考えがあります。今の自然思考に沿ったエコ、ロハスにも合致すると講師は考えます。

鉈(ナタ)で繊維に沿って木を割ると、繊維の束を生かすことができ、丈夫で防水性が高いものができます。曲がった木は、曲がりを利用したものに活かせば良いという考え方です。

木のカーブを活かしたスプーンやお皿は一枚として同じ形がなく、むしろそれが良く、規格化することは、作り手のエゴではないかと講師は考えます。

工業的な考え方だと直径やサイズが違うのはありえないけれども、本来の使う目的から考えると、桶の規格は水が漏れないこと。これが満たされていたら、使い手にとっては少々の大きさが違うことは、問題になりません。

講座の様子

講座の様子

講師は、「今は大量生産、大量消費の通用しない時代になってきている」といいます。各々の好みに合わせて対応できる物は、工業製品が出る前にあった物、あるいはその考え方を引き継いだ物です。講師は、大量生産、大量消費が良しとされた時代から次のステップへ向かう可能性として、多様な個々に対応できる力が必要だと考えています。

【多様性をもって可能性を広げる】

一方的な視点ではなく、自分の中に他者の違う考え方を導入することで、これから色んなものの見方ができると、講師は考えています。

アーティストは、自分の考えをまとめて人に伝える。一から十まで自分がやるから自分の表現として満足感がある。一方、工芸は、素材があり、顧客が存在し、求められるものをつくる。1人のエリートがつくる世界ではなく、多様な人たちの考えをタガで結んでいくように社会を作っていく。次の時代の形とはそういうものなのではないかと講師は考えています。

講師は、自己を主軸に考える西洋の考え方と違い、多様なものを包容して共生する考え方が日本の『和』にあると感じています。『多様性』というものは私たちの中にあり、正反対の性格を合わせ持ち、様々なものを束ね持っているのが個人。いわゆる多様性のるつぼ。そこを理解して、周りの人と寄り添い、補い合って作っていくことが新しい世界。工芸は、平和をつくることができるという講師。アートは、個人の思想を表すものだから宗教やイデオロギーや政治の影響を受けるが、工芸は生活シーンという基盤を持ち、宗教や思想を超えて世界を一つにしていく可能性を持っていると考えます。日本というのは、「ものづくりの国」と言われていますが、そこの根っこを見直すことにより、世界を一つにする可能性があると講師は話してくれました。

綿密な計算から導き出された木桶は、目の前に現れる姿も美しい。講演を聴いて改めて作品を見ると、美しさの中に多様性を感じ、感慨深いものがあります。

講師の技を目の前で体感しました

講師の技を目の前で体感しました

工芸のものづくりを通して、受講者はそれぞれが置かれている産業や仕事に置き換え、日々の仕事の考え方(ビジョンや戦略、モチベーションの保ち方など)を見直すことができる機会となりました。また、世界で活躍する匠の技を目の前で体感することができる貴重な学びの時間でした。

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